Interview
- オーナーシェフ
- 坂本 健
cenci
- 彩cenciが大切にしていることはなんですか?
- 健第1次産業の人、生産者があってこその仕事。農業・畜産・水産…の人になるけど、僕たちの仕事はそれにカトラリーとか、店の内装…、ものつくりのひとたちがいっぱいかかわってくれている。それをお客さんに伝える場が自分たちのレストランのあり方だと考えている。
- そう考えるようになったのは、自分で店を構えるようになってから。店を作る準備の過程の中で少しづつ芽生えてきた。いっしょに店を作っていったメンバーたちがアーティストだったし、そういう人たちと仕事をするなかでできあがっていたもの。そして、準備期間にいろんな産地に行ったことが僕にとって良かった。
- 行った先々でいろんな食材に出会って、料理をする機会があった。当然その土地の食材で、その家のものを使って作る。近所の人たちが集まってきて食卓を囲んだ時に、すごくいい空気が生まれる。その時に、自分たちがやっている"食"にまつわる仕事の力を改めて感じた。それまでは、「おいしいものをつくろう」「周りの人に負けないくらいおいしいもので人を集めよう」それが何より1番だった。そのための技術研鑽や食材探しに没頭してた。開店準備の時に、"食"の持っている力を感じることがあって、「食卓を囲んだ時に生まれる楽しいこの空気を店で表現したい」と思った。その時に「すごくおいしい」だけではく、そこにもっといろんなものがかかわってくるなとわかった。
- その産地に行けば、産地のものでやるからこそおいしいとか、その食材に作った人の思いがこもっているからこそおいしいとか、思いを込めて作った器に盛っているからこそより華やかに見えるとか、そこでの伝統的な食べ方をするからこそ沁みる料理であるとか、そういうことがいっぱいあることに気がついた。もちろん、技術研鑽や最新鋭の料理法を学ぶことも大切で続けてやっていくけれど、それと同じくらい、ここに至るまでのそれぞれの作り手の思いが、皿であったり店の中に吹き込まれていることが重要で、それに勝るものはない。それを自分のレストランで表現して、その思いを伝えていくことを大切にしたい。そして、その店自体をチームで構築していくからこそ生まれる空気があると考えている。
- 彩今回、おもや、瑞穂と一緒にしようと思ったのは?
- 健瑞穂の障害のある人と「学び合いの空間」という相互研修を実施していたことがベースにあって、そこでのかかわり、経験があったからこそで、それが仕事として野菜を作っていたり、食品加工をしていることを知って、じゃあ一緒にしたら面白いのではないかと。
- 彩その出会いの中で、障害のある人が、普段何をしているかを話したりして…
- 健障害のある人が野菜を作っている、でも、「自分たちの作った野菜がこんなすごい料理になっているとは知らなかった」と驚いたりされているのを見て、それは、やっぱり"食"の持っている力だと思った。野菜を作っているところでは、1次産業のみなさんは、それがどこへ行ってどうなってるかを知る機会は少ない。その野菜が届いた先でこんな料理になって、それを食べた人の感動を自分たちで体験して、「こんなことになるんだ!」ってなったときに、そこになにか新しいものが生まれている。
- 以前、ペルーに行ったとき、アンデスの標高1000mにあるレストランで同じようなことがあった。そこは、本当に地産地消をやりきっていて、食後のコーヒーはコーヒー農家の息子が淹れてて、「いままで自分は豆を作るだけやった。その先どうなってるか知りもしなかったけど、ここでローストをして、食後のコーヒーを淹れさせてもらって、お客さんがどんな顔をしてコーヒーを飲んでいるのかを見て、こんなの素敵なところに自分たちのコーヒー豆が行って、こんなことになるんだと知ってすごく楽しかった。いま、この仕事をするのがすごく楽しい。コーヒーを淹れることも、それに向けての豆づくりをすることも楽しい」って言ってた。"レストラン"っていう場所の力、"食"の力、素材提供だけに終わらない、それをひとつの円にしてぐるぐる循環さすっていうことは僕らのやるべきことやろうなってすごく思っている。
- 彩たくさんの人たちが、自分の仕事が何につながるのか見えなくなって、もうずいぶんになる。昔は、目の届く範囲、気持ちの届く範囲だった。広がれば広がるほど、部分だけをする仕事が増えていき、結果が自分には見えない。
- 健効率だけを求めるのなら、完全分業にして「ここではこれだけをする」ってしたほうが効率は上がる。でも、それだけしていて働いているみんなが楽しいのかどうか。そうではない。コミュニティは無駄に広げすぎずに、目指す方向性を一緒にできる人たちが文化を作り上げて、なにかしていって、その循環が生まれることがすごく重要で、それが人間の栄養になるというか…、楽しさとかそういうことになると思う。だから、いまいろいろやっていることを無理して量を増やすことはないと思っていて、いろんな人がいろんな思いでその組織が、無理なくいいように動くくらいの規模でやっていけばいいなと思う。物事を大きなうねりで全部動かそうとすると、絶対にそれの負荷が出てくるから、一挙に一網打尽!みたいなことはやる必要がないこと。
- 彩部分だけを分業でするようになった時、自分の仕事の結果は見えないから、ほかに何かしらの対価が欲しくなる。それがやっぱり、金銭に偏りすぎてしまうと、労力をいかに使わずに1円でも多くお金を得るということになってしまう。そうなると仕事としての質は落ちていく。自分の仕事の結果が見える範囲にあれば、自分の役割で手を抜いた結果も見えるからそれはやっぱり嫌だから…。
- 健それがレストランのすごくいいところで、完結するから。カバンづくりをしている友人は「すごくええな」っていう。料理を作って、食べてもらって、喜んで「おいしかった」って帰っていくところまでがこの空間で全部完結する。それはなかなかない仕事だと思う。そして、そのことを生産者にフィードバックしていく。「今回の野菜よかったよ」「こんな料理になったよ」ってちゃんと伝えようと思っている。
- 彩自分の仕事の結果が見えない中にいたら、誇りもなくなる。自分の仕事も尊重されないから相手の仕事も尊重しなくなってしまう。
- 健―人が誇りを持った仕事が循環することで生まれる空気。それぞれの仕事を尊重すること。相手が作ったものを尊重し、それを大切に表現する。結果をフィードバックする。それを繰り返して循環していけば、相手をないがしろにするなんてことはできなくなる。
- 彩おもやや瑞穂に行って感じたことは?
- 健障害者施設と言われるところに初めて行った。瑞穂で見学させてもらって、すごいみんな真面目に取り組んでいるな、と。版画の仕事をしていた人とか、仕事に誇りをもってやっているのをすごく感じた。この仕事は自分がやる、みたいな。それは、社会的に評価されるべきことであってほしいと感じた。"障害者施設で作ったカレンダー"で終わってはいけないなというか、ものづくりとして対価が生まれるべきものだと思った。
- おもやさんでもそう。みんな「これが自分たちの仕事だ!」みたいな空気感。その感じがすごくよかった。やらされててどうこうという空気がなかった。いっしょにこうやって取り組んで、出来上がっていったのもがお客さんに届いていってっていう流れの一つを任せたいなあと思える場所だった。僕らがそれを発信できる場所として、商品を販売して、お客さんが手に取った時に、あの人たちが働いている姿がお客さんの目に見える場所に届くんだと考えると、僕らが販売する大きな意味がある。今は個々がメディアになれる時代だから、どこかにゆだねてしまおうとしないで責任をもって発信することはすごく重要。そのメディアとしての力がいまcenciにあるからこそ、発信することに意味がある。
- 彩手が届く範囲、目が届く範囲、気持ちが配れる範囲はそんなに広くない。
- 健今の世の中ってお金が一番の価値になってしまっていて、お金を貯めることを1番の目標にしてしまうと、そういう束ね方をして、その中にお金の供給量の差をつけて末端の人から搾取したものが頂点の人のところに行くという方法しかない。仕事の対価って、「ぼくはおいしいものを作ります。その対価としてお金をもらいます。」というのがあって、例えば年収1億とかなろうとしたら、店をどんどん増やすとかしていくしかない。そこに自分の思いなんか入るわけがない状態をどんどん作っていって、そこで働いている人たちの賃金を安くして、自分のお金をため込んでいくことになる。それより、自分が責任もって見れる範囲で、きちんと働く人にも分配できたらいいと思う。自分たちが責任をもってこの店をやり続けている価値っていうのを理解してくれる人に来てもらって、意味のある仕事をしていきたい。
- 彩それぞれが自分が誇りをもってできる仕事をして役割を果たしていって、その小さなコミュニティがたくさんあるといい。巨大なコミュニティを作るのではなく。思いのわかる範囲、手の届く範囲でお互いが自分の仕事に誇りを持てる環境を作り続けていく。
- 健お金は社会を回していくための手段であって、目的ではない。そのことを堂々と言えなくなっている。きれいごとを言っているようにとらえられたり。「ほんとは、お金が欲しいんでしょう。」というようにお金が目的であることが正直なんだという価値観が蔓延していて、仕事の中身に価値を見出していることが嘘のようにとらえられる。
- 短期的な費用対効果だけで物事を考えるんじゃなくて、例えば海外のイベントなどに店を閉めていくことは、その期間だけで考えたら店を開けたほうがお金は入ってくる。でも、そうやってしまうと将来につながっていかない。店のスタッフも楽しそうにしてくれて海外で新しい経験を積んで、学んで、仕事にいい影響がある。
- 彩これは、それぞれが自分の仕事に誇りをもって働き続けることを持続させていくための取り組み。